<右上>
『あけろ、あけろ！』ボロ着物の王子は門の外に立ってる番兵にむかってさけんだ。番兵は門を開いたが、王子をトムとまちがえていたので、さっきトムのためにしかられたことを思いだした。その腹いせいに番兵は王子が門をでるが早いかいきなりおうじをなぐりたおした。
　王子がはね起きて番兵に飛びかかろうとすると、そこにいあわせた群集が近づいてきた。彼らはわけを知らないので王子をきちがいのこじきとまちがえて、ぐるりと取り囲んだ。
<右中1>
『私は王子だぞ！お前たち何をするか！』王子は群集をしかりつけると、彼らはおもしろはんぶんに『王子さまのお通りじゃ、さあ、道をあけたり、あけたり１』とはやしたてながら、どんどんむこうの方へおいたてて行く。
　長いこと王子は群集につけまわされたが、ようやくひとりになることができた。
　さいわいにも、王子はトムの居所をきいていたので、そこへ行けば、これは人ちがいだといって、じぶんを宮殿へつれもどしてくれると思った。やっと夕方トムの家の近くまでくると、
<右中2>
　ふいによっぱらいの大男が王子のかたをつかまえた。トムの父のジョンだ。彼が王子をトムとまちがえて、どなりつけると、王子は『おお、その方がトムの父親か？すぐに私を宮殿へつれもどしてくれ』と、さいそくする。ジョンはトムがきちがいになったと思った。彼は王子があんまりうるさいので、かたわらのぼうでなぐりつけようとすると、横からひとりの牧師が止めようとした。そのはずみにぼうは彼をたおした。それはトムの先生であった。
<右下>
　王子は家につれこまれて、動くなくなるほどジョンにせっかんされた。すると、その夜もふけて、近所の人がジョンに知らせてくれた。『さっきお前がなぐり倒した牧師が死にかかっている。早く逃げないとあぶないぞ』ジョンは驚いて、王子をつれて外へにげだした。
　その夜はロンドンの市会堂で王子歓迎のえん会が開かれていたので、はなびもうちあげられ、盛んににぎあっていた。王子はそっとひとごみにまぎれてジョンのかたわらをはなれて行った。