ドーム状の「青の洞窟」は、ガイドの声々が反響し、まるでギリシャの即興劇を思わせる響きたった。崖上に建つ家々を後に対岸のソレント港へ、絶壁の海岸線を縫う様にアマルフィ沿岸をバスは走った。常に右手は１００ｍは超える崖が延々と続き、狭い道路に加え道筋に連なる違法駐車の列が我々大型観光バスの行く手を遮り、大いに困らせた。
　途中、観光客用のレストランや土産店の並ぶ家々が点在する小さな村を通過、やがてポジターノの街が眼下に映る。観光バスの集結する広々とした駐車場に滑り込み、小休止の街中を散策と相成った。レストラン、商店街を上り坂を歩く内、革の品質の良いサンダルが目に留まる。交渉の末、言い値の２０パーセントで買った。店の主人は中々のネゴシェターであった。

　風光明媚なアマルフィの街を描写するに当り、途中までは、スムーズに事を運んだが描写が細部になるにつれ手順の問題が面倒になり、そのまま放置していた。

　いつもより早いホテル出発に、体調も多少狂い気味たが、奥行きスペースが通常の半分しかないエレベーターで二階のレストランへ降りた。七時を過ぎてもレストランのドアが開かない。御一行様のほぼ全員がドアの前に集まるころ、若い従業員二人が我々の脇を無言で通り平然とドアを開けた。

　八時過ぎ、スピード船でカプリ島に向かった。船内は欧州からの観光客でほぼ満席、日本人の新婚三組も同乗していた。カプリ島到着と同時に、二十人乗りの舟で青の洞窟へ向った。地中海独特のコバルトブルーの海面を約二十分で洞窟入口に着く。更に三人か四人乗りの小舟に乗り移り、僅かに開いた崖っ縁の隙間からドッと中に滑り込んだ。洞窟の中は意外と広く、既に数舟が入っていた。入口の隙間から入る太陽の光が海面下で複雑に乱反射し、淡いインク色と濃いインク色の偏光が海面を覆った。

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